子供のころ、はやく大人になりたかった。
ある日の夜、その日の宿題をやったかやらないか覚えてないけども。
夜更かしはそこそこに
布団から顔を出した僕は、ただ天井を眺めていた。
真っ暗な部屋の中。
「たいくつな学校から抜け出してはやく自由になるんだ」とつぶやいた。
ふと、
わるい予感がしてしまった。
「大人になってもおなじよーに
たいくつがやってくるんじゃないだろうか」
真っ暗な部屋の中。
「先のことはわからないよ」と、僕は僕に言い聞かせて目をつむった。
僕の人生はまだ、あの夜の続きなのだと思う。
ー 10代の頃に描いた夢は全て零れ落ちてしまった。
消防士を目指した理由は何気ないものだった。
自営業で苦労してきた両親は、安定した仕事について欲しいと願っていたのだと思う。
僕はその誘導にまんまと乗り、小学生のうちから安定を理由に消防士を目指した。
本当は僕は僕の形で誰かを喜ばせたり、助けたりしたかったのだけど、それを上手に言葉には出来なかった。
仮でもなんでも消防士という夢を持った僕を、周りのみんなは褒めてくれた。
いつの間にかすっかり気をよくしてしまった僕は「これでいっか」と僕の人生から手を抜いてしまったのだと思う。
それ以来自分をサボる癖がついた。
僕はみんなの期待に答えるように生きた。
ー 初めて自分の人生を生きた19歳
夢だったはずの消防士、夢が叶った筈なのにちっとも楽しくなかった19歳。
何度も何度も自分に向き合って、苦しんで、心が弱くなっていった。
「人を救いたいと思って消防士になったんだろう?」「小学生からの夢だったじゃないか」「自分との約束を忘れたのか?」「今まで散々自慢してきた夢だろう」
僕は、僕に何度も問いかけて、追い詰めていったんだと思う。
現実を知って見えてきたのは、叶えた夢を望んでいない小さな子供の僕だった。
ー 再スタートと意気込んで
本当は何を望んでいるのか、よくよく考え直して見ることにした。
本当に望んでいるのは、
いつか暖かい家庭を持つ事。
小さい頃から憧れていたワーゲンバスのオーナーになる事。
自分らしくいられる事。
これだけなんじゃないかと思うようになった。
そして消防を辞める事を決意。
「サボってきた人生を歩むのだ!」と19歳の夏、消防を退職した。
・・・この後の人生をどう過ごしたのか、僕は知っている。
当たり前だけど、この時は知らなかったんだよね。
待っていたのは腕に抱えた夢たちが溢れ落ちていく未来だった。
ー すったもんだ 紆余曲折 まぁ色々ありまして
あの日消防を辞めてから、9年が経ち
僕は28歳になりました。
あの頃掲げた夢も理想も、今では他人事のよう。
夢の全てはどこかへ行って、すっかり僕は身軽になった。
残ったのはこの身一つ、どこまでも、どこまでも自由に行けるような気がする。
ふとした時、子供の頃のあの夜を思い出す。
真っ暗な部屋の中。
あの日蓋をした不安はそのままに。
変わらず僕は目を瞑る。
「先の事はわからないよ」あの日の僕が僕に言う。
〜夢の全てがこぼれていった話〜